Wanderers - 宇宙から来た僕

ある日、自分が宇宙から来たと知った “僕” の冒険

病院への不信感

ボスが最初に入院したときに診断されたのは「精神分裂病」っていう病名だった。ずいぶんな名前をつけたもんだよね。この名前はあんまりだし誤解や差別の元になるってことで、その後「統合失調症」って病名に変わったんだ。

ボスは仕事を辞めて両親の暮らす九州でしばらく療養することになった。

僕はこの病気について、徹底的に調べた。妄想、幻覚、幻聴、それから脳の誤作動みたいなこと。ボスの症状とたしかに合っているように見えたね。

ボスは自分がその病気だと認めることに抵抗していた。薬を飲まずに悪化したり、薬を飲み過ぎておかしくなったりしていた。その頃のボスはまるで制御不能なジェットコースターみたいだったけど、いいところはまったく変わらなかったよ。

僕は、あんな天才が田舎に閉じ込められていることが悔しくてたまらなかった。ボスがいつでも復帰できるように、デザインをやめないでいてくれるように、東京でしか買えないようなデザインの本を何冊も送り続けたんだ。希望を捨てないでほしかった。僕の願いはそれだけだった。

半年ほど経ったころ、家族の心配を振り切ってボスは東京に戻って来た。

僕は、病院に行ったり行かなかったりするボスを心配して、よく病院に付き添った。それが正しいのかどうかはわからなかったけど、ほかの方法を知らなかったんだ。薬を飲むとぬけ殻のようになって淋しかったけど、安定していられるようだった。

そこはボスの家の近くにある、業界の権威と言われるお爺さんの先生がやっている病院だった。たいした診察もせずに一ヶ月分の膨大な量の薬を出していた。僕は、すごく、いやな感じがした。薬漬けにされて、ボスらしいところがどんどん消えていく気がした。

ボスは誰のことも信じられなくなっていて、僕のことも疑うことがあった。それでも僕らは毎日のように仕事帰りに自由が丘のベーグル屋で待ち合わせて話をした。僕は、自分がどうやって社会と折り合いをつけているか、どんなふうに物事をとらえているかを話した。少しでもボスの助けになりたかったんだ。

大量の薬だけ飲ませて何もしない病院に腹が立っていた。僕は自分にできることを必死に探していた。もしかしたらボスの病気を認めたくなかったのは、僕自身だったのかもしれないね。